公共事業の1ピースという不安
「日本には四季がある」とか「美しい自然がある」「食べ物が美味しい」というお国自慢を聞かされてる外国人の中には、
「オレの国にも四季はある(世界中ほとんどの国に四季はある)んだけどね…、美しい景色だって美味い食も日本以外のとこにもあるんだよね」
と思ってる人もいるに違いない。
日本の地域地域にあるこれら観光資源と呼ばれるものは本当に、多くの外国人観光客を引き寄せるほどの強力な集客コンテンツなんだろうか? 富士山の眺めや京都の神社群のように突出した眺め、場所は別として。
「地域の魅力の発信」って、IR施設を誘致しなくてもできるし、すでにやってるのではないか? 外国語(まず中国語、英語)で情報発信する、街の案内表示に外国語を増やす、海外の旅行博に出展して海外の旅行業者にアピールする、等々。
その結果、訪問者に占める外国人客の割合があまり高まってないとか、外国人客の消費金額が少ない、地域にあまりお金が落ちてないという状況だとしたら、それをどうとらえるか?
ひとつは、「他の地域と比べて外国人客にとっては魅力が低い」というとらえ方。
もうひとつは、「ポテンシャルはあるが、まだ交通インフラや観光拠点がじゅうぶんに整備されていない」「ポテンシャルはあるが、まだ、点在する地域の魅力を統合できていない、連携できていない」というとらえ方。後者は、要するに「お金があれば...」ということ。
企業であれば、商品なりサービスなりの魅力度を高めることで売上が拡大すると確信しているなら、お金を調達して投資します。しかし全国各地の地方自治体で、過去に、第三セクターが誰も利用してくれない施設を作ったりして多額の赤字を垂れ流し、あげくに二束三文で民間に売却、という経験があるので慎重です。
そこで、統合型リゾート(IR)の誘致です。IR施設自体は民間事業者の投資によって建てられます。そこに自治体の税金は投じられません。IR施設に多くの集客をしてもらうために、空港からIR施設までの交通インフラ整備などは誘致自治体が行います。
では、IR施設から少し離れた「ポテンシャルはあるのだが...」という場所の、観光振興のための整備はどうするのか?
国と地方自治体は、IR施設内のカジノ事業の売上(GGR:Gross Gaming Revenue=カジノ行為粗収益)の30%を納付金として徴収します。半分は国へ、もう半分は地方自治体へ。つまり地方自治体には永続的にGGRの15%が入ってくるのです。法人税と違って、IR事業者の採算など考慮せずに、売上(GGR)からまっさきに徴収しますから、自治体としては心強い財源です。
こういう心強い財源が生まれると決まれば、自信をもって地方債発行などもでき、地域の観光振興のためのさまざまな整備ができます。巨大な公共事業のスタートです。
IR施設に誰に来てほしいのか?
個人的にはカジノ売上(GGR)に対する納付金のすべてが「観光振興のため」に使われることに違和感があり、福祉や教育にも使うべきではないかと思うところです。IRを誘致しようとしている自治体の住民の方々は、国が定めた「IR整備法」について議論するよりも、地方自治体が上記カジノ税を何に使う計画なのかについて議論なり監視なりをすべきと思います。
カジノ税を見込んでいたるところで道路工事が始まり、「地域文化・魅力発信館」といった観光案内所や○○ミュージアムが建てられ、フタを開けてみれば利用者はわずか、儲かったのは建設業界と地域経済界の一部の人...なんてことになりかねません。
IRを誘致しようとする都道府県は国に対して、地域全体をどのように整備するかという計画を提出して審査を受けます。
もうちょっと詳しく説明すると、次のような流れです。
①地方自治体はIR事業者を公募して選びます。
②地方自治体はIR事業者からの提案に基づいた「事業基本計画」を作ります。これは、IR施設の事業計画です。
③上とともに、地方自治体は、IR施設ができることによる懸念事項への対応、周辺インフラの整備や周辺環境対策等の施策を含めた「区域整備計画」をIR事業者と共同で作成し、これを国に提出します。ポイントは、この計画は、IR施設の外側をどうするかというものだということです。
この区域整備の費用のすべてがカジノ税だけで賄えるとは思いませんが、大きな財源になることは間違いありません。住民負担が少ないという点で、画期的な地域振興計画だと思います。
しかし冒頭に書いたように、そもそもその地域の文化なり自然なり特産品が、外国人観光客の嗜好に合うとは限りません。魅力に感じられないものをいくらアピールしても集客に結び付きません。
少なくとも、地域の収益源となるIR施設に関しては、集客コンテンツを考える際に、「我が地域の魅力」というプロダクトアウトの発想を抑え、「外国人プレミアム層の嗜好に合わせる」というマーケットインの発想をもっと盛り込むことが必要ではないかと思います。
カジノ施設の役目は稼ぐこと!
しばしば、マカオのIR産業のノンゲーミング事業の強化を、「マカオのIR産業はノンゲーミング事業へとシフトしている。ノンゲーミングも大きな需要がある」という文脈で語られることがあります。しかし、当方は、マカオのIR施設がノンゲーミング事業を強化しているのは、ゲーミング売上への極端な偏重の是正のために、強引に需要喚起のためにノンゲーミング施設を作っていると考えます(それは正しい方向性だと思います)。
マカオの観光産業に占めるゲーミング売上はいまだ90%です。しかも、ノンゲーミングの多くを占めるのがホテル宿泊ですが、1000数百室あるIR施設のホテル宿泊の稼働の50%以上がカジノ客へのコンプ(特典)です。もちろん、コンプでなく自費で泊まってカジノで遊んでいる客も大勢いるわけです。
マカオで増えているノンゲーミング施設はIR施設の中に造られたものであり、IR施設に来た客が数キロ離れた観光・レジャースポットに遊びに出かけているわけではないのです。集客の「核」はあくまでもカジノだということを忘れるべきではありません。
日本の場合、まず、カジノにお金を落としてくれる外国人プレミアム層にIR施設に来てもらう必要があるのです。日本版IRの場合、来てもらったら、否応なく我が地域の魅力が目に入るような施設の作り方をすればよいわけです。
そして、IR施設に来た客の全員が、IR施設の外側の観光スポットに足を延ばしてくれなくてもいい(仕方ない)のです。
日本に来たカジノ客(外国人プレミアム客)はIR施設から出ずに空港に戻るかもしれない。しかし、がカジノ客が落としてくれたお金によって、地域の観光拠点が整備されて、カジノ客とは別の属性の訪問者が増えてくれれば成功なのです。
IR施設におけるカジノ施設には、その稼ぎによって他のあまり儲からない部門をサポートして施設全体の魅力を高めるという役目と、売上(GGR)にかかるカジノ税によって地域の観光振興に貢献するという重要な役目があります。
当方は、地方都市型IR施設こそ、カジノ客(外国人プレミアム客)の誘致と地域を周遊する観光客の誘致を、切り分けてそれぞれ考えたほうがよいと思うのです。
田中剛(Tuyoshi Tanaka)/editor
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