儲かりそうな投資先が見つかると、いくら冷静でいようとしても脳が飛びついてしまう。誘惑に負けて細部の確認を怠らないよう、“頭の中”だけでなく、実物のチェックリストを使っている。そう、彼らは言う。
ガワンデ医師が投資家たちの話を聞いて驚いたことの一つは、ファイナンスの世界でチェックリストの普及が遅いこと。
<投資家たちは常に周りを出し抜こうとしている。誰かが成功したと聞けば、ハイエナのように群がり、成功の秘訣を聞き出そうとする。少しでも儲かりそうなネタにはあっという間にみんなが飛びつく。だが、なぜかチェックリストだけはそうならない>
3人の投資家の一人、世界でも有数のファンドのディレクターに、「人々はあなたのやり方に興味を示さなかったのか」とガワンデ医師は尋ねた。
彼はこう答えた。
「何を買っているのか、どうやって投資先を選んでいるのか、は熱心に聞いてくる。だが、『チェックリスト』という言葉を発した途端、みんなどこなへ行ってしまう」
彼が言うには、中にはチェックリストについて聞いてきた者もいたが、実際に試してみた者は一人もいないそうだ。
ガワンデ医師は、WHO(世界保健機構)の「手術の安全性を安価に・大幅に・測定可能な形で低減させる」ためのプロジェクトに招聘され、チェックリストの開発と世界中の医療機関への導入に携わってきた。航空業界や建設業界のようにチェックリストが徹底して使われている業界もあれば、ほとんど使われていない業界もあるが、医療業界は後者に属していた。
プロフェッショナルの人々の間にチェックリストがなかなか普及しない原因は、面倒臭いという理由だけではないようだと、ガワンデ医師は考えている。
<私たちは、チェックリストを使うのは恥ずかしいことだと心の奥底で思っているのだ。本当に優秀な人はマニュアルやチェックリストなんて使わない、複雑で危険な状況も度胸と工夫で乗り切ってしまう、と思い込んでいるのだ。『優秀』という概念自体を変えていく必要があるのかもしれない。>
~『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』(著=アトゥール・ガワンデ)
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