前回説明したように、「キャリア」という言葉には、単にどのような職につくのかということだけでなく、仕事や人生での役割や生き方のすべてを包括する概念が含まれています。
キャリア開発は、「キャリアディベロップメント」の和訳です。研究者は「キャリア発達」と訳す場合もあります。キャリアは本人の意識的な活動によって形成されるだけでなく、無意識のうちにあるいは二次的に意識されたものとして発達していくものでもあるからです。
そもそも「発達」は心理学の分野では、「人間が生まれ、その成長の過程において、心身の形態、構造、機能が質的、量的に変化すること」という意味で、青年期
を過ぎ中年期になっても、老年期になっても生涯続くものと捉えられています。必ずしも「成長」や「拡大」を意味せず、「変化」を指している点で、日常で使わ れる意味とは異なります。
以降、ディベロップメントの訳として、意識的な活動というニュアンスが強い「開発」という言葉を使いますが、ここには上記の「発達」に込められた意味も含んだものとしてご理解ください。
キャリア開発の必要性の高まりの背景には、まず、個人の労働観、人生観の多様化があります。ポストよりも家族との時間を大切にしたい、あるいはNPOなど社外の活動も重要視しているといった人が確実に増えています。
また、終身雇用制の崩壊という社会構造の変化により、「自分の職業人生は会社に任せておけば会社が決めてくれる」というわけにはいかなくなりました。
企業側の事情として、事業環境の変化が速く、予測不能な非連続なものになり、求められる専門性が多様かつ高度になったことも要因です。
こうした環境変化と専門性への対応には、組織主導の従来の「均質・集団型」人材育成システムは不向きです。どんな能力を高めればいいのか、そのためにどんな
教育をすればいいのか、という判断すら環境変化に追いつけません。しかし企業は、従業員の能力開発を諦めるわけにはいきません。「自ら考え行動する強い個 人の育成」に注力するのは自然な流れです。このような背景から企業は「自分のキャリアは自分で切り拓く(自己決定・自己責任)意識の醸成」に取り組み始めているのです。
キャ リアは、外的キャリアと内的キャリアに大別できます。外的キャリアとは、どういう会社でどういう部署に所属しているか。内的キャリアとは、自分にとって働
くこと、生きることの意味・意義・価値のこと。自分は何が得意なのか、何をしているときに充実しているのか、何を大事にしたいのかという、内的キャリアの 自覚が重要です。
企業によるキャリア開発支援は、内的キャリアの自覚の支援です。その目的は、個人のその人らしい成長を組織の成長に活かすことです。
当然のことですが、やろうという意志があって能力と適性がある人に任せるのが最も効率的、効果的です。本人自身がモティベーションを感じられるからです。
2012年、ソニーは過去最大となる5200億円の連結最終赤字になる見通しを発表しました。この年に設立されたのがEC人事部です。新たな事業への挑戦、事業の売却や撤退(出向や転籍)という環境変化に対応するため、ミドル〜シニア社員の活性化が急務と認識し、EC(Employee Career)の開発支援を行うために設けられました。ミッションは、<社員一人一人が環境変化に対応できる「自律的なキャリア開発」を支援する>です。
施策のひとつが、キャリア自立をサポートするための「キャリアメンター制度」で、現在26名のキャリアコンサルティング資格保有者がキャリアメンターを務めています。昨年12月の時点でキャリア研修受講者の78%が「非常に有益+有益」と回答し、48%が考え方や行動に明確に変化があったと回答しています。同社のキャリア開発支援は、社員の活性化の面で着実に成果を上げているようです。
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